ホモ・グローバル


栗本が語る世界動向

このページの写真はコバヤシヤスノブ撮影"SOTOCOTO"提供
国会議事堂前 イメージ写真 両氏

ライワル・ワトソン博士は、伝わってくるYENの大国の悲惨な状態に、興味を持っていた。神秘的な伝統に支えられながらも、精密機械のように機能し世界をリードするかに見えたこともある、日本というシステム。どこかに狂いが生じているのか、状況は絶望的なのか。相撲を愛する生命科学者は、旧友である、経済人類学者にして衆議院議員、栗本慎一郎氏を国会議事堂に訪ね、日本の謎と未来について、語り合った。


ライワル・ワトソン どうですか、まだ日本の経済にはどしゃ降りの雨が続いていますか。

栗本慎一郎 景気が悪い、という意味でもそうですが、実はそれどころじゃない状態です。もう、死んでるといっていい。なにしろ日本の経済はいまや独立していないんです。小渕政権になってから、すっかりアメリカの言いなりになってしまった。かつては何がしかの独立性を保っていたんです、おおむねアメリカの言うことにはしたがっているように見えるときでもね。

ワトソン 具体的に言うと、どういうことが起きたんですか。

栗本 ご承知だと思いますが、大蔵省と大銀行によってオペレートされていた日本の金融システムが昨年の秋についに崩壊してしまった。そして、長銀をアメリカにただ同然の値段で売ることをアメリカに強要され、結局すべてにイエスと言ってしまった。長銀には大変な額の税金が投入されているんですよ。それなのにね。これは大変重要なターニングポイントだったんです。

写真 対談中の両氏 ワトソン それで栗本さんは、そうした首相を支持する自民党を辞められたんですね。

栗本 そういうことです。そして、かつての仲間たちに反抗することを呼びかけ続けているんですがね。加藤紘一氏は総裁選に出て、小渕首相のやり方に異を唱えた。でもうまくいかなかった。彼が首相になれば、少しは変わるのに。

ワトソン しかしなんでそんなことになってしまったんでしょう?日本ほどの大国で、慎重に運営された経済システムを持っていた国が、アメリカのいいようにされてしまうなんて。

栗本 日本の経済は決して繊細には運営されてなかったんですよ。場当たり的なカミカゼ・スタイルだった。
   バブルの時代に、我を忘れて不良債権となるのは自明だったのに、浮かれてさんざん金を貸した。そしてバブルがはじけても、次から次へと下手を打った挙げ句に、すべての問題を先送りにして、結局最悪の事態を迎えることになってしまったんです

ワトソン 日本には、例えばグリーンスパン氏のような、強力な影響力を持った経済人や政治家はいなかったわけですか?そうなる前に何らかの方策をとるような。

栗本 グリーンスパン氏だって別段影響力なんかないですよ、アメリカの経済に対して。せいぜいちょっと操作することができる程度です。当然日本にも、そんな力を持った人なんていません。
   金融市場や株式市場についていえば、問題は根本的で致命的なものです。要するに、お金が出回りすぎているんですよ。2000兆円あれば世界中のすべての株式が買えます。ところが世界に出回っている金は5000兆円もあるんです。

ワトソン 二倍以上。

栗本 日本の株式市場なら400兆円で買い占められます。アメリカはその約二倍程度のサイズ。あまりに多くの金が世界にある。これはコントロールしきれないよ。いつか、必ず破綻します。

ワトソン そんな状態で、これからどうやっていこうとしているんでしょうね。

栗本 とりあえずアメリカは、日本人にもっと金を使え、と圧力をかけてきてます。ずっと前からですけれどね。日本人は銀行に金をため込みすぎだと。ところが、前と違うのは日本人の心持ちがここのところ大きく変わったこと。銀行は信用できないとわかってしまった。金があったら何かを買うほうがよい、投資するほうがよい。とはいえまだまだ、アメリカからすれば、使い方が甘い、という状態なんでしょうが。

ワトソン 昔は、親たちは収入の半分は使い、半分は貯蓄せよ、と次の世代に教えたものだけれど、こんな考えはアメリカ流の経済のなかでは間違ってるわけですね。

栗本 そうですね、彼ら流に言うなら9割は使って5〜10%貯蓄せよ、でしょう。

ワトソン こんな時代の日本でも、そのアドバイスは有効なんですか?

栗本 有効です、ただし、貯金はドルでしたほうがいいですね。円は信頼できませんから。もしもアメリカ経済が駄目になっても、ドルはまだまだ信用できます。

ワトソン それにしても、どうしてアメリカ経済は崩壊せずにいるんでしょうね。こんなに膨張を続ける株式市場、個人の資産も天井知らずに膨らんでる。でもクレジット、バーチャルマネー、なんの保障もないでしょう。

栗本 明らかにアメリカのダウも高すぎますよね。ただ、おそらく近いうちに8000ドルくらいに落ち着くでしょう。今のままが続くとは彼らも思っていない。どこかシステムに間違いがあることに気がついている。
   マイクロソフトなどの、アメリカの大企業や資産家などのなかで、国を動かしている一番大きな勢力は、前には共和党を支持していましたが、今はクリントンとゴアの後ろ盾になっている。ただ、それもいつまで続くかわかりません。次の選挙では、ゴアは共和党の有力候補であるブッシュ・ジュニアに対してかなり劣勢なようです。

ワトソン アメリカ経済がそういう方向に推移することは、日本経済にいい影響を与えますか?

栗本 当面は与えますね。バブルが多少はじけたとき、彼らの金は日本に流れてきますから。なぜなら日本市場がアメリカの資本家たちにとって扱いやすいからです、ヨーロッパに比べて。

   ヨーロッパは歴史的なこともあって、決してアメリカのそうした勢力に対して従順なばかりではありませんから。日本の政治家よりはずっとヨーロッパの政治家の方がましですしね。彼らは、少なくとも来るべき新時代へのビジョンを持ってます。

   60年代から70年代にかけて、二十代のころ、反政府運動をしたり、ドラッグをやったりしていた連中が、いろいろ経験を経て生活のスタイルを変え、政治家となり、いまのヨーロッパの指導者たちになってるんです、少しは世間を知っている。日本はそれとくらべるともうお話にならない。私なんかが、若い世代に属するくらいだから。宮沢蔵相などもうおいくつになられたか。なにしろ第二次世界大戦前に東大を卒業されているんだ。

   こんな骨董品の政府は簡単にコントロールされてしまうよ。例えばルービンのような若い、精力的な男たちから見れば、日本のお年寄りたちは赤子同然だ。日本のシステムは一見モダンに見えるけれど、実はまだ徳川時代の体制が残っているんだから。

ワトソン ただ、老人が知恵によって導く、というのは、例えば樹の下に集まって相談していた小さな社会などでは有効だったわけですよね。現代でも、そういうやり方でたとえば世界のことを考えるときに老人の叡智を取り入れるということはできるんじゃないですか。

栗本 確かに、日本がそんな古いシステムで、1980年代の半ばまで世界に伍してやってきた、というのは視点を変えれば凄いことだと思う。かなりよくできたシステムだった、といえるかもしれない。でも、もう駄目になってしまった。もう機能していないし、機能していたとしてもそれではこの時代はやっていけないんだよね。


日本の未来どころか、世界の未来が何やら怪しくなってきた。いったい、お金とは、何なのだろう、そして、どうなっていくのだろう?二人の賢人の話は続く。

ワトソン お金はもともと、金や銀といった、価値のあるものでしたよね。それを、同じ価値のものと交換していた。それが、いつか紙幣になった、これはシンボルに過ぎない。ただ金と交換できる、という決まりがある、つまり兌換紙幣ですね。紙切れだけれども、金と同じである。そういう保証がある。その紙幣を出した国家、銀行への社会的な信用によって、そういうシステムが運用されていた。それがいまや、バーチャル・マネー、まったく実体がなくなっていますね。クレジット・カードですべてが片付く、紙幣なんて、銀行にもないんじゃないか。

写真 対談中の栗本 栗本 もちろん、銀行にいって要求すれば、5兆円の貯金があればそれは現金化はできるわけだけどね。実際にやったら取り付け騒ぎになってしまうか。

ワトソン 現金化は確かにできるのかもしれません。ただ、もともとはすべてがタンジブルなものだったでしょう。あらゆる財物は手で触れる、確かなものだったはずです。それが紙幣というシンボルになっていったとしても。ところがいまやそれがそうでなくなった。どうしてこんなことがありえるのか、崩壊せずに存在するのか。私にはどうにも理解しがたいのです。

栗本 なるほど。確かに、そのことが今の事態の大きな原因となっていますね。1960年代に、人類は金と紙幣の兌換体制をストップした。これは大きな変化だった。金の存在とは別に、紙幣が有り得る。金の量とは関係なくなったわけで、経済の状況によっては歯止めがなくなる。それで、結果お金は増えすぎた。こういう構図です。

ワトソン 私は、アフリカ人です。アフリカに生まれ、アフリカに育ちました。私たちは北半球を信じません。アメリカはもちろんですが日本やヨーロッパもです。彼らは私たちからすべてを奪う。そして、ほんの少ししか与えない。彼らが我々から奪っていったものを使って作ったものに彼らは好きな値段をつける、私たちはその値で買わないと暮らしていけない。このシステムはとても綿密に作られ慎重にコントロールされています。

   当然、昔我々南半球の人間はそうじゃなかった。物々交換が基本だった。複雑そうに見える現代社会ですが、じつはこんな時代でもそうするのが自然だとは思いませんか?たとえばコンゴに石油が出る、じゃあ、それをブラジルのコーヒーと交換しよう。紙幣も要らない、バーチャルマネーもいらない、コンピュータの内部のことなんか考える必要も無い。自分たちできちんとシステムを作り運営すれば問題ないんじゃないか。私はそう考えるんですが、不可能なことなんでしょうか。

栗本 いや、そんなことはないでしょう。それどころか、そうした物々交換のようなシステムを作り上げない限り、21世紀を人類が生き残っていくことはできないんじゃないか、とすら考える。お金、資本によるコントロールに関わらないシステムを取り入れないと、地球はやっていけないでしょう。1960年代だったと思いますが、バックミンスター・フラーがそうしたことを最初に提唱しました。今こそ、実際に行動を起こすべき時なんじゃないだろうか。

ワトソン 南半球には、本気で考えている若い人たちがたくさんいます。ブラジル、オーストラリア、南アフリカ、私は何人も知っている。今こそ、決起するとき、既存の権力を打ち倒すとき、植民地的な支配から自由になるべきときだ、と。

栗本 いいねえ、その通りだよ。

ワトソン 実際、この2000年というのが、チャンスだと彼らは思っている。いわゆるコンピュータの2000年問題、2000年バグですね。世界中がこの問題で神経質になってます、そんなときだからこそ、何か起きればこそ、チャンスなんです。

   南アフリカは石油以外の資源はすべてある。アフリカ全体をユニットにしてリーダーシップをとれば、非常に大きな力となる。オーストラリアはもうかなり強大な国ですし、ブラジルも、ビッグ・プレイヤーになり得ます。こうした南半球の国が連係をうまくとれば、北半球に負けるものではありません。y2kバグの発生の仕方によっては、本当に大きなチャンスが訪れるかもしれないって、彼らは話し合ってますよ。

栗本 やってくださいよ。このままだと、10年くらいで、世界のシステムの崩壊が起きるはずなんです。

ワトソン もしも2000年問題が起きた場合、南半球のように、バーチャル経済が発達していない国のほうが強い訳です。ハイテクノロジーに支えられ、クレジットカードや、信用や、保証や、取引の記録がモノをいう社会は、コンピュータに問題が生じ、記録が消し飛んでしまったら、下手したら資産が雲散霧消してしまうかもしれない。

   そういった社会は、砂でできた城なんです。紙幣やプラスティック・マネーやエレクトリック・マネーには実体がない、実体経済の裏打ちがない。そうした弱さが露呈してしまう、システムが崩壊してしまう。でも、南半球はそんな事態にも十分対応できます。
お金の裏には、実は何もない、のですから。

栗本 今こそ、貨幣をこの世界から無くすべき時、なのかもしれないな。

ワトソン 21世紀のお金として、水、がいいんじゃないかと思っているんです。

栗本 水?

ワトソン 水です。フレッシュ・ウォーター。これが、過去における金や銀や銅のように、価値を持ったお金となって流通する。何よりも貴重なものとして、評価される。実際に、水は人々が考えているより、ずっと貴重なものなんです。深層海流水という、海中の奥深くをゆっくりと流れる水や、金鉱のように地中深く眠る水、氷となって保存された水。そうした、本当にピュアーで美しい水だけが、価値を持つわけです。

栗本 驚いたね。なるほど。

ワトソン カナダはそうなったら大変裕福な国になります。地下水や氷のかたちでフレッシュな水が大量にありますからね。国によっては大変です。だいたい、今だって、ヨーロッパやアメリカではミネラルウォーターが馬鹿な値段で売られている。アメリカじゃガソリンは安いから、ミネラルウォーターのほうが高かったりしますよね。すでに事態ははじまってる、のかもしれませんよ。

栗本 それじゃあ、紙幣は、フレッシュな水と交換できる兌換紙幣としてだけ、生き残るわけだ。

ワトソン そうした場合、日本は生き残れますか?

栗本 日本はそんなに悪くはないでしょう、水については。

ワトソン でも農業は水を駄目にしますよ。とくに水田は。

栗本 日本の農業は崩壊しかけてるから大丈夫ですよ!困った国だねえ。日本の経済はどうなっているのか。

写真 国会議事堂会議室内での両氏


ライアル・ワトソン Lyall Watson

1939年アフリカ生まれ。オランダなどヨーロッパ各国で多様な学問を修め、動物行動学の博士号以下、生態学、植物学、心理学など多くの学位をもつ。人間界における超常現象を収集し新自然学の確立をめざすライフサイエンティスト。著書に生命潮流(工作舎)、「悪食のサル」「風の風物詩」「水の惑星」「アフリカの白い呪術師」(河出書房新社)、「ネオフィリア」「わが心のアフリカ」「未知の贈り物」(筑摩書房)、「スーパーネーチャー?」(日本教文社)、など多数。

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